年金だけでは住宅ローンが払えない—60代・70代が直面する滞納リスクと任意売却
オーバーローン / 任意売却 / 失業 / 定年退職・老後 / 滞納
「定年後は年金でなんとかなると思っていた。でも、実際に退職してみると月々の返済が重くてどうにもならない」
「今月だけ遅らせるつもりが、気づいたら3か月分の滞納になっていた」
「競売の通知が届いた。もう手遅れなのか」
そうした声が、近年エイミックスへの相談のなかで増えています。
本記事は、すでに年金生活に入っており、住宅ローンの返済が滞りはじめている60代・70代の方、またはご家族に向けて書いています。滞納後の時系列・競売リスク・任意売却という選択肢を、任意売却専門23年のエイミックスが実務の観点から解説します。
なお、定年前後の予防的な資金計画については、別記事「定年後も住宅ローンが残る。後悔しないために退職前後でやること・確認すること」をご覧ください。
📋 この記事でわかること
1. なぜ年金だけでは住宅ローンを払えなくなるのか
住宅ローンを組んだ現役時代には、定年後の生活を具体的にイメージすることは難しいものです。しかし、定年を迎えて実際に年金生活に入ると、次のような構造的な問題が重なります。
① 年金収入は想定より少ない
厚生年金(夫婦2人の場合)の月額受給額の目安は令和5年度末時点で約22〜23万円程度ですが、加入期間や標準報酬月額によって大きく異なります。自営業者や非正規雇用期間が長かった方は国民年金のみとなり、月額6〜7万円程度にとどまるケースもあります。
② 生活費の支出は想定より多い
総務省「家計調査(2024年)」によれば、65歳以上の夫婦のみ無職世帯の月平均消費支出は約25万6,000円(食費・医療費・固定費など含む)です。そこに住宅ローンの返済が月額7〜10万円加わると、年金収入だけでは毎月10万円以上の赤字になる世帯も珍しくありません。
③ 変動金利の上昇が追い打ちをかける
日本銀行の政策金利は2026年5月現在0.75%で、各行の変動金利の適用金利は1%前後まで上昇しており、今後の追加利上げも見込まれています。現役時代に低金利を前提に組んだ返済計画が、定年後に金利上昇で崩れるケースが増えています。
④ 医療・介護費用の増加
60代以降は医療費や介護関連の支出が増える時期です。急な入院・手術・介護施設への費用が発生すると、ローン返済に回す資金がなくなることがあります。
2. 滞納後の流れ——競売までのタイムライン
住宅ローンを滞納してから競売に至るまでには、一定の時間的余裕があります。しかし、何も手を打たないまま時間が経過すると、選択肢はどんどん狭まります。
滞納から競売・任意売却までの目安タイムライン
※金融機関・保証会社によって対応速度は異なります。
| 時期の目安 | 起きること | 対応のポイント |
|---|---|---|
| 滞納1〜2か月目 | 金融機関から電話・郵便による督促 | この段階でリスケ(返済条件変更)の相談がもっとも有効 |
| 滞納3〜4か月目 | 期限の利益の喪失通知。保証会社が代位弁済を開始。債権が保証会社・サービサーへ移行 | 任意売却の相談はこの段階から本格化すると余裕あり |
| 滞納5〜6か月目 | 競売申し立て(裁判所へ)。競売開始決定通知が届く | 任意売却はまだ可能。ただし時間的余裕が少なくなる |
| 競売申し立て後 6〜12か月 | 現況調査・評価書作成・売却基準価額の決定・入札・開札 | 開札日の前日まで任意売却の可能性あり(条件が整えば) |
| 開札後 | 最高価入札者が落札。引き渡し・退去 | この段階では任意売却不可 |
※フラット35など住宅金融支援機構のローンは、機構の対応方針により通常の民間ローンより早く競売手続きが進むケースがあります。
重要なのは、競売の開札日の前日まで任意売却の可能性は残されているという点です。ただし、開札直前では売却活動の時間が足りず、実質的に任意売却が成立しないことがほとんどです。滞納が始まった段階での早期相談が重要です。
「滞納が始まった」「競売の通知が届いた」という方へ
競売の開札日まで、任意売却の可能性は残っています。時間があるほど選べる手段が多くなります。まずはご相談ください。
3. 競売になるとどんなデメリットがあるか
競売は裁判所が強制的に進める手続きです。年金生活中の方にとって特に大きな影響が出るポイントを整理します。
① 売却価格が市場価格より大幅に低い
競売の落札価格は、一般的に市場価格の50〜70%程度になることが多いとされています。売却価格が低いほど残債(売却後に残るローン残高)が大きくなり、その後の返済負担が重くなります。
② 引越し費用が出ない
競売では原則として引越し費用は一切出ません。退去の準備を自費で行う必要があります。任意売却では、債権者の合意のもとで売却代金の一部から引越し費用が認められる場合があります(確約ではありません)。
③ 近隣・知人に知られやすい
競売物件は裁判所の情報として公開されるほか、現況調査のために調査員が自宅を訪問します。近隣や知人に状況が知られるリスクがあります。
④ 退去の強制執行
落札後、買受人から明け渡しを求められ、応じない場合は強制執行による退去となります。高齢者にとって、突然の転居は身体的・精神的な負担も大きくなります。
4. 60代・70代が取り得る3つの選択肢
住宅ローンの返済が苦しくなった場合、大きく3つの方向性があります。ローン残債と自宅の価値の関係で、選ぶべき道が変わります。
選択肢① リスケジュール(返済条件変更)
金融機関に申し出て、月々の返済額を一時的に減額したり、返済期間を延長したりする方法です。ただし、定年後の年金生活では収入が増える可能性が限られるため、根本的な解決にならないケースも多いです。リスケは返済期間を延ばすものであり、総返済額は増加します。
選択肢② 通常売却(アンダーローンの場合)
不動産の売却価格が住宅ローン残高を上回る「アンダーローン」の状態であれば、通常の売却でローンを完済し、残った資金を老後の生活費に充てることができます。近年の不動産価格の上昇により、とくに都市部では売却価格が残債を上回るケースも増えています。まず不動産査定を受け、現在の状況を確認することが先決です。
選択肢③ 任意売却(オーバーローンの場合)
不動産の売却価格が住宅ローン残高を下回る「オーバーローン」の状態では、通常の売却でローンを完済することができません。この場合に有効な選択肢が任意売却です。詳細は次のセクションで解説します。
5. 任意売却という選択肢——年金生活でも活用できる理由
任意売却とは、住宅ローンの残債が残る状態(オーバーローン)でも、債権者(金融機関・保証会社)の合意を得て、市場に近い価格で不動産を売却する方法です。
年金生活中でも任意売却が選ばれる理由
- 収入に関係なく手続きを進められる
任意売却は不動産の売却手続きです。収入の種類(年金・給与・事業収入など)は手続きの可否に影響しません。年金のみの方でも、債権者の合意が得られれば手続きを進めることができます。
- 競売より高値での売却が期待できる
任意売却は一般の不動産市場で売却活動を行います。競売(市場価格の50〜70%程度)と比べて高値での売却が期待でき、売却後に残る債務額を抑えられる可能性が高くなります。
- 引越し費用が考慮される場合がある
債権者との交渉により、売却代金の一部から引越し費用が認められるケースがあります(債権者の承諾が前提であり、確約ではありません)。
- プライバシーへの配慮
通常の不動産売却と同じ流れで進めるため、競売のように公告されたり、調査員が自宅を訪れたりすることを避けられます。
- 売却後の残債は無理のない形で協議
任意売却後に残った債務については、ご本人と債権者が直接協議して返済条件を決めます。年金収入の範囲内で月々1万円程度からの分割返済で合意できるケースもあります(条件は債権者・状況によって異なります)。
任意売却の注意点
任意売却が可能な期間は限られています。競売の開札日の前日までが原則ですが、売却活動には一定の期間が必要なため、実質的には競売申し立てから6か月以内に動き出すことが望ましいです。「もう少し様子を見てから」という判断が、選択肢を大きく狭める原因となります。
また、任意売却を成功させるためには、債権者との交渉経験と不動産会社としての専門性の両方が必要です。任意売却の実績が豊富な専門会社に相談することを強くオススメします。
6. よくある質問(FAQ)
Q. 年金生活中でも任意売却はできますか?
A. はい、可能です。任意売却は収入の種類や年齢に関係なく、住宅ローンが残ったまま競売前に自宅を売却する方法です。年金生活中の方でも、債権者(金融機関・保証会社)の合意が得られれば手続きを進められます。まずは現在の残債と不動産の査定額を確認することが最初のステップです。
Q. 年金しか収入がない場合、任意売却後の残債はどうなりますか?
A. 任意売却後に残った債務については、売却完了後にご本人(債務者)と債権者が直接協議して返済条件を決めます。年金のみの収入であることを踏まえ、無理のない月額での分割返済が認められるケースが多く、月々1万円程度での合意例もあります。ただし条件は債権者・状況によって異なります。
Q. 滞納してから競売まで、どのくらいの時間がありますか?
A. 一般的に、滞納開始から競売の申し立てまでは3〜6か月程度、その後開札(落札)まで6〜12か月程度かかります。ただし金融機関や保証会社によって対応速度は異なります。任意売却が可能な期間は競売の開札日の前日までですが、余裕をもって動くためにも滞納が始まったら早めにご相談ください。
Q. 配偶者が連帯保証人の場合、任意売却にも同意が必要ですか?
A. はい、連帯保証人である配偶者の同意が必要です。任意売却は通常の不動産売却と同じく、所有者全員および連帯保証人の合意のもとで進めます。手続きの詳細については、任意売却専門の不動産会社へご相談ください。
7. まとめ
✅ 後悔しないための重要ポイント
- ● 年金生活では、月々の家計赤字に住宅ローン返済が加わることで返済困難に陥りやすい。
- ● 滞納が始まると競売まで概ね1〜2年の時間があるが、選択肢は時間とともに狭まる。
- ● アンダーローンなら通常売却、オーバーローンなら任意売却が現実的な選択肢。
- ● 任意売却は年金生活中でも活用でき、競売より高値・プライバシー配慮・引越し費用の考慮などの点で優れる。
- ● 任意売却後の残債は、年金収入に応じた無理のない月額での協議が可能。
- ● 早期相談が解決の幅を広げる——滞納が始まった段階でのご連絡をオススメします。
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この記事の監修・相談回答
細貝 和弘(ほそがい かずひろ)
宅地建物取引士 / 公認不動産コンサルティングマスター / 2級FP技能士
「年金だけでは払えない。でもどこに相談していいかわからない」というご相談が増えています。競売の通知が届いていても、まだ間に合うケースは実務上多くあります。まず現在の状況を一緒に整理するところからお手伝いします。




























